好きなものを好きなだけ

日々思い付いたことをつらつらと

出産レポート 後半

最初から世話をしてくれているT助産師は、「まだまだですよー。産む時の痛みはこんなもんじゃないですよー。」と言った。冷たいようだけど本当なんだろう。寒くて震えて何度もトイレに行きたくなった。陣痛に耐えながら歩くのは辛かった。電気毛布を入れてくれたけど、それでも寒かった。T助産師は「武者震いでしょう」と言っていた。(武者震い?いやいやいや、違うでしょう!ちっとも勇んで興奮なんてしてないし!)そう思ったけど話す余力もない。今思うと、寒いだけじゃなくて、全身の筋肉の緊張が続いて、疲労して震えてたんだと思う。

朝の6時を回り、眠気も最高潮になった。陣痛の合間に猛烈な眠気が襲う。いつの間にか軽く寝てしまって、ハッとなって起きた。陣痛の間隔が、長くなっている!旦那ちゃんもそれに気付いて、助産師さんを呼んだ。
T助産師「じゃあちょっと仮眠しましょうねー。」
そう言って赤ちゃんの心拍を計測していたモニターを取り、電気を消して行ってしまった。
仮眠が必要なのかな...。そう思って横になる。陣痛の間隔は6〜10分くらいまで伸びていた。(でも仮眠して、せっかく開いた産道が閉じてしまったら?また最初からやり直し!?そんなの嫌だ!)そう思ったら、仮眠などしていられない。T助産師さんを捕まえて、息も絶え絶えに「どうして陣痛の間隔が伸びるんですか?また早めるにはどうしたら良いですか?」と聞いた。T助産師は「自然のものだから。色々なのよ。」と言う。それでも医師に指示を仰いでくれたらしい。私の主治医は、すぐ近くに個人の医院を開業している、優しくてベテランの医師である。趣味が産科の研究だという、この先生の指示なら安心できる。結果、陣痛促進剤を打つことになった。
これは後のS助産師の見解だけど、実はへその緒が通常より短く、更に捻れていた。そのせいで赤ちゃんがお産に向けて動くと、へその緒が閉塞して酸素が届かなくなり、お産が難航したんだろう、とのことだった。産後、赤ちゃんがお産の途中で苦しんだ形跡があったらしい。T助産師はモニターも切ってしまっていたので、「もし、あのまま仮眠していたら...。」と思うと、とても怖い。

促進剤の効果は30分もしないうちに表れた。間隔がまた短くなり、子宮だけではなく骨盤全体に響く猛烈な痛み。陣痛が来るたびに「あああああああ!」「うううううう!」と声が出る。T助産師からは「まだ医師も助産師も出番ないですよー。歩くなり座るなり好きなようにして下さーい。そんなに声を出すと最後にバテていきめないですよー。」と言われた。言ってることはよく分かったけど、声は抑えられなかった。

昼番のS助産師が到着した。引き継ぎの声が聞こえる。
S助産師「分娩室、どんな状況?」
T助産師「全然ですよー。まだまだかかりますよ〜」
後で書類を見ると、T助産師は出産日を既に12/15と記載していた。今日中には生まれないと踏んでいたらしい。

朝の8時になり、初めて医師が来てくれた。顔を見ただけで少し安心できた。内診をして、T助産師と話をしている。
医師「あー、これはもう、剥がしてあげましょうよ。パンパンですもん。」
T助産師「えー。。。そうですかぁ〜?」
直後、生暖かい液体が大量に流れ出るのが分かった。破水した。先生が羊膜剥離してくれたらしい。
医師「ここから1時間半、、、いや、2時間だな。2時間で勝負つくから。後2時間で終わりだよ。」
励ますように声を掛けてくれた。正直、(ええ〜まだ2時間もあるのー!?長いよ〜)と思ってたけど頷いた。先生は一旦、医院に帰る。帰って欲しくなかったけど、仕方がない。

1分おきの陣痛が続く。徐々に、中から大きなものが出ようとしているのが分かった。すごく力を入れていきみたくなったけど、助産師が合図するまでいきんではいけないと聞いていたので我慢していた。「ううううー。いきみたい!」思わず横にいる旦那ちゃんに漏らすと、S助産師が側に来てくれた。
S助産師「あなた、子宮口は全開してるし、もういきんでいいのよ?」
えっ!?という感じだった。全開してるのも、いきんで良いのも、聞いてない。赤ちゃんがとても出たがっている時に、サポートできなかった私。それが赤ちゃんにとても申し訳なかった。
S助産師「お産の準備を始めましょう。」
S助産師は手早く私の脚に布を付けたり、器具の準備を済ませたら、側に座ってリードしてくれた。
S助産師「陣痛の波に合わせて。大きく息を吸って、最初は吐いて。もう一度大きく息を吸って、いきんで!」
分娩台に付いているバーを手前に引きながら、お腹に力を入れる。思わず声が漏れる。
S助産師「声は出さない!その分の力が勿体無いわよ!」
これは結局最後まで何度も言われたけど、声を抑えるのは難しかった。でも確かに、声を上手く抑えられた時の方が、よりお腹に力を込めれた。
旦那「目ぇ瞑ったらあかん!」
そうだった。出産の極意その4「いきむ時に目を閉じてはいけない」閉じると目の周りの毛細血管が切れて、後でひどい顔になるらしい。これはなんとか最後まで守れた。こんな調子で1分おきに、1度の陣痛で2回いきむ。30分ほどすると、排臨を教えてくれた。赤ちゃんの頭が見えてきたということ。ここから、すごく能動的な気持ちになった。(赤ちゃんが今、一番狭くて苦しい場所にいる。私が頑張らないと。)そんな気持ちだった。さらにその30分後、発露。S助産師がPHSを取り出す。
S助産師「先生、発露です。」
会話はそれだけだった。
S助産師「先生が到着したら、産むわよ。」

この頃の陣痛はもう、表現しきれない。よく発狂したり失神したりしないものだと感心する。ただ陣痛に合わせていきむことに必死になるので、それが気を紛らすのかもしれない。先生が到着して、内診する。
医師「うん、もうパンパンだな。切りましょう。あと2回!あと2回陣痛来たら産むよ!」
2回目の陣痛で2回いきみきった所で、メスが入ったのが分かった。麻酔が効いているかのように痛くないのが不思議だった。
それまで、1度の陣痛で2回いきむのもギリギリだった私。最後は3回いきんで頭だけ出たので、身体を出すのに4回いきまなければならなかった。「死に物狂いで」っていうのは、この時のようなことを言うのだと思う。どこにそんな力が残っていたのか、全身のエネルギーをかき集めてお腹に力を込めた。たぶんこの時は顔の毛細血管が100本くらいは切れたと思う。
そして、気が遠くなった。

「出たで!」
旦那の声にハッとした。横を見ると真剣な表情の旦那の顔があった。自分の脚側に目をやると、白っぽい小さな身体が見えた。先生と助産師さんが「大きい!」と言っていた。
生まれたんだ。
10:04 ジャスト2時間。さすが医師の見立て。
生まれたけど、鳴き声が聞こえないから不安になった。助産師さんが赤ちゃんの鼻に管を通したり、背中をさすってくれたりして、ようやく初めての声が聞けた。
「ふ....ふぎゃゃ....ふぎゃああああぁ〜」
ホッとした。ようやく広がる安堵感。胸に抱かせてもらいながら、(ああ確かに、ずっとエコーで見てきたあの子だ。やっと会えた。)そう思った。「よく頑張ったね」と言って抱きしめた。自分の身体はまだあちこち痛んだはずだけど、すっかり麻痺したように何も感じなかった。

医師は出血も少なく、収縮も良好なので、「ベリーグッド!」と何度も言っていた。「赤ちゃんが大きいのは遺伝だよ。」とも教えてくれた。赤ちゃんは3630gで、確かに私も出生時3400gと大柄だった。この先生で良かったと本当に思うし、感謝の気持ちでいっぱい。早く1ヶ月検診でお会いしたい。
赤ちゃんを取り上げてくれたS助産師にも大感謝!聞けば私の母より年上で、この超人手不足の産科で、未だに夜勤もこなしている。常に最大8人の妊婦に対して助産師1人というから、職場環境は相当酷い。赤ちゃんが大きくなったら、是非助産師になることを勧めてみてね、とのことだった。
夜勤のT助産師にも感謝。冷たい感じに書いてしまったけど、これだけの人手不足の医療現場では苦労も多いんだとお察しします。
そしてずっと付き沿ってくれた旦那ちゃんにも感謝。分娩まではほとんど病院には放置されていたので、旦那ちゃんがいなかったら乗り切れなかったんじゃないかと思う。いきみに合わせて身体を支えてくれたり、汗を拭いたり、水分補給してくれたりと、お疲れ様でした。
そして何より、こんなに小さいのに命懸けで生まれてきてくれた赤ちゃんに、泣けるほど感謝。ほんの小さな小さな卵のころから、本当によく頑張ってくれたと思います。

最後に、出産の極意5は「陣痛は向かい合わず、かわせ!」でした。これに関しては全く無理。5人くらい産んだら出来るようになるかもしれないね。

長くなりましたが、最後まで読んでくれてありがとう。
これから育児を楽しんでいきます(*^^*)